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日本学術会議「経済学分野の参照基準」原案への要望書

2013年11月11日、日本学術会議経済学委員会より、「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準:経済学分野」の「原案」が提出されました。社会思想史学会幹事会は、本学会が日本学術会議の協力学術研究団体の一つであることに鑑み、この「原案」を慎重に検討し、そのうえで日本学術会議の経済学委員会ならびに同委員会の「経済学分野の参照基準」検討分科会にたいして、2014年1月10日付で「要望書」を提出いたしました。

本学会幹事会が経済学分野の「参照基準」の策定に少なからぬ関心を持つ理由としては、おおむね以下の点が挙げられます。第1に、社会思想史はかつて経済学部に不可欠の科目と位置づけられ、現在まで多くの大学において、経済学カリキュラムの重要な一翼を担ってきたこと。第2に、本学会会員の数割は経済系の学会にも同時に所属し、経済学の教育を実際に担っているだけでなく、経済学の生誕と発展について強い関心を持っていること。第3に、本学会は「思想史の社会的性格に関心をもっているものがあつまり、社会思想史学会を作る」と創立趣意書にある通り、社会・経済・政治などの思想史における社会ならびに教育上の重要性を確信していること。

こうした観点から先の「原案」を吟味すれば、「参照基準は……外形的な標準化を求めるコアカリキュラムでもない」(1頁)という日本学術会議の要請と、「わが国特有の方法で行われてきた〈多様なアプローチに基づく経済学教育〉からは距離を置いた」(1頁)という「原案」の基本的姿勢とは、両立できないのではないかと危惧します。必要なのは、経済学の「標準化」という一般的な傾向と、経済学の「多様化」という歴史的な財産とに、相乗効果を見出す方向性ではないでしょうか。

社会思想史は、人間の思考が経済を含む社会という制度ないしは構造にいかに影響を与え、また影響を受けてきたかを歴史的にかつ思想的に考察する学問体系です。「原案」においても「市場経済を中心とする現代の経済制度を本質的かつ歴史的に理解する」(7頁)ことの重要性が指摘されていますが、このような目的のためにも、社会思想史の意義は大いにあると考えます。ミクロ経済学の分析用具を開発したマーシャルは経済学を「人間研究の一部である」と定義し、稀少性定義で著名なロビンズは他方で、経済学者は価値判断を含むPolitical Economy(または応用経済学)も熟知して政策提言せよと推奨しました。こうした経済学者の思想的営為を学生が学ぶ機会を提供することも、「問題設定能力」、「全体を総合的に把握する能力」(13頁)を開発することに資するのではないでしょうか。

以上の方向性に鑑みるならば、(i) 社会思想史が経済学カリキュラムで重要な位置づけであったこと、(ii) 思想史的アプローチの有用性に触れること、この2点を少なくとも「経済学分野の参照基準」に含め、日本学術会議が文部科学省に回答した基本線(2010年7月22日付)に沿い、経済学の「多様化」を尊重し、各大学がその「標準化」のみに縛られないような最終案となることが望ましいと思われます。

以上のような内容を盛り込んだ「要望書」を、本学会幹事会は、日本学術会議経済学委員会ならびに同委員会の「経済学分野の参照基準」検討分科会に提出いたしました。会員のみなさまにたいして、ここにご報告申し上げます。

2014年1月28日

社会思想史学会 幹事会

 

※ 日本学術会議経済学委員会に提出した「要望書」本文は、コチラ